「おいしい信州ふーど」レポート

作る人、伝える人、広める人、その間をつなぐ人。地域の皆が伝承の鍵

伊那市高遠の上山田区芝平(しびら)で栽培されている「芝平なんばん」。山室・小原地区で栽培されている「高遠てんとうなんばん」と共に、2020(令和2)年、「信州の伝統野菜」に選定されました。収穫時期は7月下旬~11月初旬。肉厚で爽やかな辛味とうまみがある青トウガラシで、サイズは10~14センチと少し大きめです。もともとは、東部山麓の三義芝平地区で主に自家用として栽培されていたもので、1978(昭和53)年、集落が上山田区へ移転した後も作られていました。昨年設立した「高遠在来とうがらし保存会」が普及に努めています。

生産者の赤羽寿美子さんは、辛いものが好きだという夫のために、夫の親戚のトモエさんから種をもらって育て始めたと言います。辛みそや佃煮のほか、焼いたり、煮たりして食べていたところ、「野菜のように食べるトウガラシは珍しい」と訪ねてきたのが、食事処「楽座紅葉軒」の3代目で、地域の食の保存に取り組んでいる高島良幸さん。一緒に、当時90歳を越えていたトモエさんに話を聞きにいくと、「20歳で嫁いできたとき、既におばあさんが作っていた」「この土地のものだから大事に育ててほしいと言われていた」ということが分かり、赤羽さんも驚いたそうです。

「高遠てんとうなんばん」「芝平なんばん」を使用した「高遠とうがらし七味」

同保存会の会長も務める高島さんは、「家族間だけで受け継がれているものを長く残していくことは難しい。地域の皆で関わることが、伝承の鍵になります」と話します。選定された当時、2軒だった生産者は現在、9軒に増えました。地域の食の発信拠点「環(たまき)屋」では、料理教室を開催したり、2つのなんばんを使った商品開発を進めたりしています。作る人だけではなく、作り方を伝える人、作ったものを広めてくれる人、そしてその間に入ってサポートをしてくれる人がいるからこそ、伝え続けることができる。赤羽さんは昨年から、以前暮らしていた下芝平からさらに標高が高い上芝平で、種用に芝平なんばんを育て始めたそうです。「ほかの作物の影響を受けず、良い種を採ることができれば」と話す様子からは“つないでいきたい”という強い気持ちを感じました。

赤羽寿美子さんと高島良幸さん

楽座紅葉軒
TEL:0265-94-2154
住所:伊那市高遠町小原305-1
URL:http://koyoken.net/

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