「おいしい信州ふーど」レポート

地形を生かした天然の冷蔵庫「風穴」で熟成し、風味が増す「稲核菜」

松本市安曇地区・稲核(いねこき)で作られている稲核菜(いねこきな)。野沢菜と似ていますが、茎の長さは40~50センチと短く、カブの部分は少し大きめです。繊維質が多くて歯応えがある茎は、葉と共に塩漬けに。カブも甘酢漬けなどにして食べられています。

昭和初期には、野沢菜、羽広菜(はびろな)と共に「長野県の三大漬け菜」と呼ばれ、松本平一帯で作られていました。現在は、稲核地区の固有種として栽培されていますが、その担い手は数人までに減少。後継者の育成を目指して、稲核生産者組合が運営する道の駅「風穴の里」のスタッフが教わりながら、栽培を始めました。

道の駅「風穴の里」
店内には稲核菜の加工商品をはじめ、さまざまな地場産品が並ぶ

8月下旬から9月にかけて種をまき、成長したものを間引いて肥料を追加。「霜にあてると柔らかくなる」と言われていることもあり、収穫は11月半ば~下旬に行います。その際、採種用に形の良いものを選別して、再度、植えます。冬を越し、5月には花が咲き、種を取ります。

道の駅の名前にもなっている風穴。その歴史は宝永(1704~1711年)までさかのぼります。石積みの内外で温度差や気圧差によって風の流れが生まれ、入り口部分を通じて大気が循環。真夏でも涼しく、「天然の冷蔵庫」と呼ばれています。地区には大小合わせて30以上の風穴が今でも残り、家庭用で使われているもの、地酒の貯蔵をしているもの、見学用のものも。稲核菜も洗って漬け込み、風穴で貯蔵することで風味が増すと言われています。

1990(平成2)年、「風穴の里」が開業した際に、地域の名物として考案されたのが「稲核おやき」。稲核菜の茎と葉を、信州みそと砂糖で煮て、もちっとした生地で包んで蒸しています。「風穴の里」の支配人で、同組合の副組合長を務める塩原忍さんは「皮も具も、皆でいろいろと話しながら工夫して作りました」と振り返ります。店頭には通年販売する漬物のほか、旬の時期には生のもの、そして種も並び、食堂で付け合わせに出すこともあるそうです。

稲核おやき

組合員の高齢化に伴い、人手不足は深刻化。栽培や製造について、試行錯誤が続いています。近年は、安曇小学校で稲核菜の漬物教室を開き、植えたり、収穫の手伝いに来てもらったりしているとのこと。ほかにもイベントの出店や販路拡大などに尽力しています。塩原さんは「地域の名前を冠した固有種。何とか次代に受け継いでいきたいですね」と話します。

稲核生産者組合 副組合長 塩原忍さん

道の駅 風穴の里
TEL:0263-94-2200
住所:松本市安曇3528-1


⇒ 信州の伝統野菜「稲核菜」(「おいしい信州ふーど」図鑑)

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